毎年薬価改定の前にやることがあるのではないだろうか

 菅総理の所信表明演説における「グリーン社会」について文句を言ってしまったが、演説を読み直すともう一つどうしても文句を言いたいことがあることに気付いた。

【全文】菅首相 所信表明演説

 それは社会保障についてである。菅総理は次のように仰る。

「各制度の非効率や不公平は、正していきます。毎年薬価改定の実現に取り組むとともに、デジタル化による利便性の向上のため、オンライン診療の恒久化を推進します。(中略)すべての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継いでまいります。」

 うーん。制度の非効率や不公平を正すことに文句を言う人はいないであろう。しかしその文脈で出てくるのが毎年薬価改定だから困ったものだ。近年薬価が(特に財務省から)目の敵にされ、とにかく下げる方向に圧力がかかっている。分からないでもないが、その前にやるべきことがあるのではないだろうか。

 まず、我が國の膨らむ社会保障費の中で薬価が占める割合は実は増えていない。横ばいである。増えているのは別のところなのだが、医師会から多額の献金を受け取っている國会議員の先生方は恐らく診療報酬をより下げる方向には動かないのだろう。しかし薬価ばかり下げると、当然製薬会社としては投資をしづらくなり、革新的な新薬が我が國から生まれる確率が下がる。我が國は新薬を自力で創出することができる國の一つである。この力を簡単に絶やしてはならないと考える。

 診療報酬に手を付けると言っても、病院の経営が厳しいことも巷間よく言われることである。だがそもそも、不正や未払いにきっちり対処すれば随分と変わってくるのではないだろうか。健康保険証は顔写真もなく、偽造がそこまで難しくない。不正利用があってもおかしくない。又、不正とは言えないまでも、我が國の保険制度の抜け穴をつくような利用も確認されている。更には、治療費の踏み倒し、つまり未払いの問題もある。医療費の未払いは数百億円にもなると言われている。これらに適切に対処することが先決ではないだろうか。勿論、これら全てを解決しても、年間数十兆円の社会保障のうち小さな割合の話かもしれない。根本的な解決には至らないかもしれない。しかし「不公平を正す」と言うのなら、これらの問題を放置したまま他に手を付けるのは國民の納得は得られないのではないだろうか。逆に、こうしたまさしく「不公平」なところに正面から取り組むことで、その後の痛みを伴う改革に対して國民からの支持を得られやすくなるのではないだろうか。

 天網恢恢疎にして漏らさず。狡い奴が得をする世の中であってはいけない。物事には守るべき順番があるのだと思う。

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