インド太平洋でより影響力があるのは米國かチャイナか
ランド研究所の興味深い研究。インド太平洋における米國とチャイナの影響力をそれぞれ評価している。
ここでは影響力を「片方がもう片方の行動や態度を形作る能力」と定義している。つまり米中対立の文脈においては、第三國が米中とどのような利益を共有していて、米中はそれら第三國を動機付けたり強制したりするにあたりどのような資源や能力を活用することができるのか、ということになる。
米國とチャイナのインド太平洋における構想や目的はそれぞれ異なる。米國は地域の開かれた自由を維持し、安全と安定を保証したい。チャイナは自らの力を拡張し、地域のチャイナへの依存度や一体感を高め、外部の干渉をなるべく排除して指導力を発揮したい。目的が異なるために、両國が影響力を行使したいと考える相手國は異なってくるが、その中でもお互いに優先度が高い國がインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムだという。というわけで、これら六箇國に米國の同盟国や戦略的パートナーである日本、豪州、印度の三箇國を加えた計九箇國における米中の影響力を比較研究している。
測定した変数は14あるが、大きく分けて「外交的・政治的影響力」「経済的影響力」「軍事的・安全保障的影響力」の三つの柱で評価している。総合的には日本、豪州、印度、フィリピン、シンガポールにおいて米國の影響力がより強く、マレーシア、タイ、ベトナムではチャイナの影響力がより強いという結果になった(インドネシアでは同程度)が、興味深いのはその内訳である。矢張りと言うべきか、経済的影響力はチャイナが圧倒的に強く、安全保障上の影響力は米國の方が強いことが分かった。これは本当かと疑いたくなるが、経済的な依存度が米國寄りだったのは日本だけだった。
特筆すべきは、経済的にチャイナに依存している國々においても、チャイナを安全保障上の脅威だと認識していることだ。つまりこれら東南亜細亜の國々では、やむを得ずかもしれないが、安全保障上の懸念よりも経済発展に重きを置いている状況になる。如何にチャイナが上手く飴(経済)と鞭(軍事)を使い分けているかということ。そして恐ろしいのは、これが我が國にとって決して対岸の火事ではないということ。今回評価された九箇國において唯一チャイナへの経済依存度が相対的に低かった日本だが、これがいつ覆って飴と鞭に翻弄されるようになってもおかしくない。
経団連や政治家の姿勢等を見ていると猶更心配になってくる。社員の生活と株主の利益を守らねばならない雇われ社長の立場を想像すれば、その姿勢も理解できなくはないのだが、そこは確固たる國家観の上に覚悟を持って企業経営していただきたい。経済成長は大切だが、どのような國でどのように働きながら経済成長していくかも極めて重要だと思う。