解散総選挙の陰と陽
およそ八年振りに誕生した新たな首相、菅総理の門出は洋々だ。世論調査では軒並み非常に高い内閣支持率。読売と日経では74%、共同・朝日・毎日でも65%前後1)。まだ内閣発足間もなく実質的に何もしていないのだが、驚異的な数字だ。この高すぎる程の内閣支持率(そして野党の合流新党の残念な低支持率)を背景に早期に解散総選挙に打って出るべきと多くの人が思う。
しかしこれには光と影がある。
まず光の部分。それは強固な國内政治基盤を築けるということ。國内の政治権力が弱いリーダーの話を外國首脳は聞かない。平成二七年に約七年振りに独メルケル首相が来日した際のエピソードは有名だ。安倍首相が「中国には何度も行っているのに、日本にはずっと来なかったのはどうしてか」と問うと、メルケル首相は「日本の首相は毎年代わるから会っても仕方がないと思った」と応じたという。実際、安倍首相の再登板まで我が國の首相は七年連続で毎年交代していた。コロコロ政治指導者が変わるようであればその國のリーダーは相手にされない。強固な國内政治基盤を築くことが外交上重要であり、早期に解散総選挙を行い勝利すればそれはひとまず達成できる。安倍総理の外交レガシーを効果的に引き継ぎ、激化する米中対立の中でうまく舵取りするためには必要だ。
しかし影の部分もある。それは國内政治基盤が強固になるからこそ、國民に人気のないというかあまり支持されない政策も思い切って進めやすくなることだ。これが例えばあまり票にならないと言われる安全保障分野等の政策を思い切って進めてくれるのならば結構な話だが、反対に習近平さんの國賓来日や消費税の増税といった國益を毀損するような政策を進められてはかなわない。菅総理が消費税の増税に負の印象を持っていないどころか寧ろ前向きなのではないかというのは先日の発言からも推察される2)。翌日に少し軌道修正したとはいえ、やはり財務省を正当に説得できないのかなと不安にさせられる。そして今回菅さんを新総理に押し上げる流れをいち早く作り、幹事長に留まった二階さんは、習近平さんの國賓としての来日について「穏やかな雰囲気の中で、実現できることを心から願っている。中国は引っ越しのできない隣人だ。仲良くがっちり手を組んで、お互いに共通のことを考える国柄となるように切磋琢磨すべき」と相変わらずふざけたことを仰っている3)。七月に自由民主党外交部会で國賓来日中止を要請する決議をまとめた4)のに、醜く抵抗する二階さんである。
二階さん程の人に世界の潮流が見えていないはずはない。今米國や欧州、インド太平洋はチャイナに圧力をかける方針で一致している。米ポンペイオ國務長官も今朝次のようにtweetしていた。「國連で英独仏が南シナ海に対するチャイナの不当な主張を退けたことを歓迎する、力による現状変更は認めない」と。二階さんにはチャイナに譲歩せねばならないよっぽどの事情があるのかもしれないが、國民を巻き込むのは止めていただきたい。チャイナに譲歩するのは拉致被害者の全員奪還と引き換えでなければならない。それであっても、國賓としての来日は國を誤る。
さて、この影の部分のリスクを背負う覚悟で早期の解散総選挙を歓迎するべきか。菅総理の国家観や歴史観が明らかになる機会でもある。果たして如何に。
1)報道各社の内閣支持率、なぜ違う?…読売・日経は7割台と高く 読売新聞オンライン(2020/09/21 17:20)
2)菅氏、消費税「将来は引き上げざるを得ない」 日本経済新聞(2020/9/11 0:03 (2020/9/11 5:30更新))
3)習主席の国賓来日「穏やかな雰囲気の中で」 自民・二階幹事長 産経ニュース(2020.9.17 14:49)
4)習近平氏の国賓来日中止を求める自民党決議 菅氏「真摯に受け止める」 SankeiBiz(2020.7.8 15:26)