腸内微生物で診断を下す日がそこまで来ている_腸活のススメ
ライム病治療後症候群(PTLDS)を診断するために腸内微生物叢を確認することが有用かもしれない。そのような研究が米ノースイースタン大学によりなされており、この記事に少し詳しく書かれている。
ライム病と呼ばれるマダニに媒介される感染症があり、この感染症自体は多くの場合抗生物質の投与により回復するが、治療終了後に10~20%がPTLDSとして知られる症状を呈するという。具体的には痛み、疲労、思考困難といった症状を呈するようだが、これらの症状は普通に生活している中でも珍しくないものであり、それ故にPTLDSの診断は非常に難しいという問題がある。米國では800,000人がPTLDSであるとも言われているらしく、決して看過できない問題だが、この診断に腸内微生物叢の確認が有効な方法であるかもしれないというから驚きである。
健常人、集中治療室(ICU)で治療を受けている患者、PTLDS患者の便をそれぞれ分析したところ、PTLDS患者の腸内では他と比較してブラウティア属(Blautia)が増えており、バクテロイデス属(Bacteroides)が減少していたという。ブラウティア属はあまりその役割が分かっていない細菌だが、肥満、アルツハイマー病、多発性硬化症の患者によくみられることが知られている。バクテロイデス属は比較的有名な腸内微生物で、消化を制御したり炎症や免疫反応に関与していることが知られており、精神的な安定に重要なGABA(ガンマアミノ酪酸)を産生することでも知られている。
PTLDS患者の腸内微生物叢ではこうした変化が確認されたわけだが、これだけをもってして、ブラウティア属が増えてバクテロイデス属が減っていたらPTLDS患者であると断定はできない。ライム病の治療には前述したように抗生物質を用いるので、そもそもこの腸内微生物叢の変化が抗生物質の投与によるものであれば、それをもってPTLDSの診断に使うというのは困難だ。そこで、ICUで治療中の患者のうち抗生物質を投与されていた人の腸内微生物叢を調べたところ、PTLDS患者と同様の腸内微生物叢の変化は確認されなかったという。この結果から、抗生物質の投与それだけでこうした腸内微生物叢の変化が起こるとは考えにくく、PTLDS患者に特有の変化である蓋然性が高まった。
こうした研究結果は、診断手法としての可能性だけではなく、新たな治療の可能性をも有している。実際にここで確認されたような腸内微生物叢の変化がPTLDSの症状を引き起こしているのであれば、その腸内微生物叢を変えてあげることでPTLDSの症状から脱することができるかもしれない。腸内微生物の研究は人々の健康な生活に欠かせないものとなっている。今後の研究に期待したい。